2026年3月、東日本大震災から15年という節目を迎えます。国内外のメディアが女川町を訪れ、震災の記憶と復興の歩みを伝えようとするいま、SSI Japanとしても“海の現場”に立ち続けてきた人の声を残したい。
宮城県女川町のSSIダイブセンター「宮城ダイビングサービス High Bridge(ハイブリッジ)」(以下、High Bridge)代表、髙橋正祥さんに、15年の実感と、これからの地域や海への思いを伺いました。

あの日から15年。変わったこと、変わらないこと
「震災からの復興を見てきて、15年はあっという間でした。だけど、まだやるべきことがあるなと思っています」。
髙橋さんがまず口にしたのは、“節目”という言葉の軽さとは裏腹な、静かな実感でした。
震災直後、陸は瓦礫の山でした。そこから月日が経ち、いま、街並みは驚くほど整い、外から訪れた人の目には「復興した」と映る風景も増えました。けれど髙橋さんは、視線を海へ向けます。
「陸はきれいになりました。でも海の中は、まだ瓦礫が山のままなんです。引き上げることもできません。復興の予算もないので、海中はそのまま残っています」。
陸の復興は目に見える。けれど海の復旧・復興は、水面下で見えにくい。髙橋さんの言葉には、“海に携わる者”だからこそ見える現実がありました。

“できることはダイビング”。ボランティア活動を通じたつながり
髙橋さんは震災後、岩手(大槌町・大船渡・釜石)や宮城(石巻・女川)を中心に、捜索や瓦礫撤去などの活動に関わってきました。震災から10年が過ぎてからも、福島(浪江町・南相馬市)の海で行方不明者の捜索にあたったことがあると言います。
「沈んでいる瓦礫の数や量を見るたびに、津波の怖さを常に感じます。最初に海に入った時、流された家が海の中にあって……。衝撃的でした」。

当時は、車両の引き上げに関わったこともあり、胸が詰まる場面に直面したこともあったといいます。髙橋さんにとって宮城は、生まれ育った地元であり、母方の縁も南相馬につながる場所でした。
「地元が被災地になったのは、すごくショックでした。それまではボランティアもしたことがなかった。でも、だからこそ、できることをやろうと思ったんです」。
活動の中で築かれていったのは、作業の技術だけではありません。人と人のつながり、地域との信頼、そして東北の海との関係を続けていくための基盤でした。
High Bridgeの歩み。渡波→女川駅前へ
髙橋さんは、震災前、神奈川・葉山でガイドとして活躍されていましたが、震災を機に故郷・宮城へ。High Bridgeは、2012年に石巻・渡波でスタートしました。店名を決める際は、多くの助言を受けながらも、候補を100個ほど考え抜いたといいます。それでも最初に思いついた名前がHigh Bridgeだったそうです。
「沿岸部で被災している方たちや県外から来る方たち、みなさまと宮城の海を結ぶ架け橋になってほしい。そんな思いで名付けました。……それと、僕の名前が髙橋だからです(笑)」。
重い現実のなかでも、ふっと肩の力が抜けるユーモアを交えながら語るところに、髙橋さんらしさが滲みます。
2015年には、女川駅前の商業施設「シーパルピア女川」へ移転。自宅兼店舗から、店舗としての機能に集中できる環境へ切り替えました。ちょうど長男が生まれたタイミングでもあり、仕事と暮らしの距離感を見直す転機にもなったといいます。商店街に入ったことで交流は増え、訪れるダイバー以外の人とも接点が生まれたそうです。
いまHigh Bridgeを訪れるゲストの9割は県外。半数は関東圏からで、関西からの来訪も多いといいます。リピーターは約3割。さらに近年は海外からのゲストも増え、昨年はフランス人を中心に十数人が女川の海を訪れたそう。
「外国の方にも、もっと知ってもらいたい。ホヤやホタテ、カキの養殖のことも含めて、女川の海の文化を見てほしいんです」。

女川の海はいま、そしてこれから
女川の海の魅力を一言で表すなら、髙橋さんは「四季」と答えます。春はワカメ、夏はウニ、秋はサケ、冬はカキやホタテ。山と海が近い東北ならではの海産物の豊かさは、“見て・潜って・食べて”体感できる価値そのものです。
「東北って地味なイメージを持たれがちなんですけど、日本の海って面白い。特に東北は、伊豆とも違うし、北海道とも違う。よくゲストの方は『想像してたより、色がある』と言ってくれます」。

そして2026年、High Bridgeは女川に新店舗を建設中!完成は10〜11月予定。2階には宿も設け、これからの20年を見据えた拠点にしていきたいと語ります。
さらに新しいポイント開拓、離島ダイビング、ドライスーツでのドリフトなど、“東北でまだ誰もやったことがないスタイル”にも挑戦していきたいという思いも。もちろん漁業との調整が必要な領域もあり、簡単ではない。それでも、少しずつ信頼と合意を積み上げていくのが髙橋さんのやり方です。
またもう一つ注力しているのが、子どもたちへの教育です。震災後、毎年いくつかの学校でシュノーケル教室や着衣水泳、環境教育(海の生き物のスライドショーなど)を実施。学校側のニーズに合わせて形を変えながら続けてきました。
「子どもたちの世代に今の海を伝えていきたい。子どもたちがダイビングをやりたいってなったら、なおさら嬉しいです」。
海は“当たり前”にそこにあるものではない。前にいた魚がいなくなることもある。だから記録を残し、学びをつなぎ、次の世代へ渡していく。
「当たり前は当たり前じゃない。だから一緒に、今の海を考えていきたいんです」。
15年はあっという間だった。そう語る髙橋さんの目線の先には、過去を語るだけではなく、未来へ橋をかけ続ける志がありました。女川の海と人をつなぐHigh Bridgeの歩みは、いまも現在進行形です。
High Bridgeが潜水撮影協力した
東日本大震災の特集番組が放送されます
・日本テレビ(news zero): 3月9日(月) 23:00
・朝日テレビ(報道ステーション) 3月11日(水) 22:00
・NHK(おはよう日本) 3月11日(水) 7:00〜7:45 ※全国放送
・NHK(てれまさ) 3月11日(水)6:00〜6:59 ※宮城ローカル
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宮城県女川町を拠点に、石巻・女川を中心とした東北の海を案内するダイビングサービス。震災後の活動をきっかけに2012年に立ち上げられ、女川駅前の商業施設「シーパルピア女川」内に店舗を構える。季節ごとに表情を変える女川の海と、地域の暮らしに根ざした体験を大切にしながら、県外・海外から訪れるダイバーも多数受け入れ。最新のツアー情報や営業案内は、公式サイトおよびSNSをご確認ください。


