2025年4月、和歌山県潮岬沖・水深72mの海底に沈むスカンジナビア号を対象に、再び潜水調査が実施されました。調査を主導するのは、SSI XR(エクステンデッドレンジ)トレーニングセンターとしてテクニカルダイビングに特化した「スティングレイ・ジャパン」。船内の新たな構造物のhe確認や、文化的価値の高い部位の特定に加え、今後のレック(沈船)ダイビング活用に向けたルールづくりへの第一歩が踏み出されています。また、調査直後には、スカンジナビア号とゆかりのある静岡県沼津市にて一般向けのトークイベントも開催され、180名以上の来場者が集まり、大きな関心が寄せられました。

本記事は、本プロジェクトのSSIによる特集の後編。前編では、これまでの調査の経緯や実施背景についてお伝えしました。今回も潜水調査の中心人物であるスティングレイ・ジャパン代表で、SSI XRトレーナーとして活動されている野村昌司さんに話を伺い、4月の調査や5月のトークイベントを通じて新たに得た気づき、そしてテクニカルダイビングのフィールドとしての今後の展望について、お話を伺います。
“海の難所”への挑戦。72mの深海に眠るスカンジナビア号
SSI広報(以下、──):4月の調査、5月のトークイベント、お疲れ様でした。まずは調査についてお伺いしたいのですが、当初の予定通り進めることができましたか?
野村氏: 正直なところ、予定していた10日間のうち、スカンジナビア号の調査に出られたのはわずか3日間でした。潮が非常に速くなってしまい、調査が難航しました。黒潮の影響を受けるエリアなので、事前の予測がつきづらいというのは、今回改めて感じたところです。


── ダイビングポイントとしての難しさを、あらためて実感されたわけですね。まさに“海の難所”…。
野村氏: そうですね。このスカンジナビア号が沈む海域は、潮の流れが複雑で、海に停泊して潜るのも容易ではなく、調査のたびに準備と調整が必要になります。レックポイントとしても、日本でここまでチャレンジングな場所はそう多くありません。
──そんな環境の中でも、調査を続ける一番大きなモチベーションはどこにあるのでしょうか?
野村氏: やはり、日本でこうした場所をダイバーが目指せるようにしたいという思いが強いですね。スカンジナビア号は、とても挑戦のしがいがある場所なんです。


“見えなかった記憶”をたどる。沈船内部に広がる歴史の断片
── 潜水調査そのものは限られた日数だったとのことですが、その中でも新たな発見はあったのでしょうか?
野村氏: ありました。今回はチーム人数を活かして、チームごとにエリアを分担し、より細かい調査ができました。これまで全体を動き回っていたのに比べ、特定の場所に集中できたことで、「今まで通っていたのに気づかなかった」発見がいくつもあったんです。
── 特に印象に残ったものはありましたか?
野村氏: 大きかったのは、かつて甲板に展示されていたスカンジナビア号のスクリューを初めて確認できたことです。かつて沈む前に乗船された方が撮影したホームビデオの映像の中に、そのスクリューが映っていました。「このスクリューが、今も残っているのでは?」と探しに行き、その場所を実際に確認。思い出の中の記憶と水中での現在の姿がつながった感動がありました。

── 他にも内部の探索が進んだとのことですが、どのような様子でしたか?
野村氏: 今回は、これまで入れなかった2か所の内部エリアにアクセスできました。ひとつは当時の客船らしい、広くて優雅な階段構造が残っていた場所。もうひとつは、電光掲示の看板が落ちている、ゲームセンターのようなエリア。中には電気の配線がそのまま残っている箇所もあり、外観よりも保存状態が良いと感じました。ただし、水深と環境的に危険も多いので、内部の調査にはさらに時間と慎重さが必要です。
──今回の調査にはNHKの取材チームが同行されていたんだとか。貴重な映像を記録することに成功ですね。
野村氏: はい。限られた調査日程でしたが、貴重な映像を撮ることができました。NHKの方からの要望は、地元の方々から寄せられた“記憶”と現在の様子を重ねる、そんな取材内容だったので、私たちの調査と目的が重なる部分も大きかったですね。

── 5月に行われた講演会についても聞かせていただけますか?反響はいかがでしたか?
野村氏: 観客の多くはダイバーではなく、沼津の地域住民の方々でした。中には「朽ちた姿は見たくない…」という声もありましたが、それでも多くの方が関心を寄せてくれて、スクリーンに映された水中写真を熱心に撮影していたのが印象的でした。




“目指す価値のある場所”へ。調査から見えた未来のレックポイント像
── 今回の潜水調査を経て、今後さらに進めていきたい調査や体制づくりについてお聞かせください。
野村氏:スカンジナビア号は、かつて人々の思い出が刻まれた場所であり、大切な「記憶のフィールド」でもあります。さらに5月19日には沈船では初となる“ふね遺産”(※)にも登録されました。だからこそ、誰でも自由に潜れる場所にするのではなく、「しっかりと準備をしたテクニカルダイバーが安全に目指せる、本格的なレックポイント」として整備したいという思いがあります。
──本格的なレックポイントとしての価値があると。
野村氏:実際に、水深72mという深さにアプローチできるレックポイントは国内ではほとんどありません。しかも、スカンジナビア号は、世界的にも知られる豪華客船。この船に潜れるということ自体が、テクニカルダイバーにとって大きな魅力になると感じています。将来的には、海外のダイバーにも日本を訪れてもらえるような場所に育てていきたいです。
──具体的には、どのようなステップを検討されていますか?
野村氏:今後は、適切な知識やスキルを持ったダイバーが安全に潜るためのルール作りを進めていきます。引き続き、地元・和歌山県串本町にあるダイビングショップ「ダイブクーザ」の代表である上田直史さんをはじめ、関係者の皆様のお力添えをいただきながら、スカンジナビア号にふさわしいアクセス基準を定めていきたいと考えています。特に船内に入る場合は、より高度なトレーニングと経験が求められるため、慎重に進めていくつもりです。
──日本におけるテクニカルダイビングの裾野も広がる可能性がありそうですね。
野村氏:そうですね。日本では「テクニカルダイビング=敷居が高い・危険」と思われがちですが、実際には50代、60代、さらには70代でもテクニカルダイビングを楽しんでいるダイバーはいます。それには正しい知識と技術が必要で、自制心を持ちながらダイビングに取り組み、チームとして行動するなど、目には見えない”テクニカルダイバーとしての考え方”の部分もとても重要です。私たちはその“楽しさ”と“安全性”の両立を示していきたいと思っています。
──スカンジナビア号がこれからのテクニカルダイビングの可能性を広げてくれる場になることを、私たちも楽しみにしています。野村さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
※ふね遺産:公益社団法人日本船舶海洋工学会が、歴史的に価値のある船やその関連設備を認定し、社会に周知することで、文化的遺産として次世代に伝えるための制度


「スカンジナビア号」潜水調査の関連リンク
東京新聞(6月17日掲載)
今も人々の心に…沈没の「スカンジナビア号」「ふね遺産」に決定 沼津沖、ホテルやレストランで活躍
沼津市NET(5月24日掲載)
沼津と白い客船をつなぐ記憶「スカンジナビア号の物語」トークイベント開催
静岡新聞(5月18日掲載)
客船スカンジナビア「崩壊進み、魚のすみかに」ダイバーら沼津で講演、記憶後世へ
NHK 関西NEWS WEB(5月27日掲載)
海に沈む「白い女王」 ダイバーたちの挑戦
NHK WORLD-JAPAN News(6月4日公開)
Finding the Stella Polaris: Sunken luxury cruise ship
NHK WORLD-JAPAN NEWS – YouTube(6月5日公開)
Finding the Stella Polaris: Sunken luxury cruise ship
NHK おはよう日本(6月13日放送)
海に眠る”白い女王”ダイバーたちの挑戦
スティングレイ・ジャパンについて

スティングレイ・ジャパンは、神奈川県伊勢原市を拠点に活動するSSI XRトレーニングセンター。テクニカルダイビングをはじめとするアドベンチャーダイビングといった、より高度で専門性の高い分野を提供しています。ダブルタンクやサイドマウント、ディープ、沈船ダイビングや洞窟ダイビングなど、多くのダイビングスタイルに対応しており、インストラクター自身も常に現場で潜り続けることで、最新の知識と技術を確実に提供できる体制を整えています。具体的な目標を持つダイバーや、さらに深く海の世界を探求したい方々を、技術面・安全面からしっかりとサポートしています。
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